「賃貸借契約書は昔から同じものを使っている」
「管理会社から渡された契約書なので、内容を詳しく確認したことがない」
「家賃滞納が起きて初めて契約書を読み返した」
不動産オーナー様から、このようなお話を聞くことがあります。
賃貸借契約書は、入居時に署名・押印して保管しておくだけの書類ではありません。
家賃滞納、騒音、無断転貸、ペット、修繕、退去、原状回復、敷金精算など、トラブルが起きたときに確認する基本となる書類です。
私は不動産管理会社で20年以上、賃貸管理、入居者対応、家賃滞納、退去精算、オーナー対応などの実務に携わってきました。
その経験から感じるのは、
「トラブルが起きてから契約書を見る」のではなく、「トラブルが起きる前に契約書を整えておく」ことが重要
ということです。
この記事では、不動産オーナー様が賃貸借契約書で特に見直しておきたい10の条項について、実務目線でわかりやすく解説します。
※この記事は一般的な情報を提供するものです。契約内容や物件の状況によって適切な条項は異なります。また、法令・制度・実務運用が改正される場合がありますので、実際の契約書作成・変更時には最新の情報をご確認ください。
なぜ賃貸借契約書の見直しが必要なのか
賃貸借契約は、一度契約すると長期間続くことがあります。
そのため、
「10年以上前に作った契約書を、そのまま更新している」
というケースも珍しくありません。
しかし、その間に、
- 法律や制度が変わる
- 保証会社の利用が一般化する
- 設備が増える
- 入居者の生活スタイルが変わる
- 管理方法が変わる
といったことがあります。
国土交通省の賃貸住宅標準契約書でも、賃料、共益費、敷金、禁止・制限行為、修繕、解除、解約、明渡し、原状回復、連帯保証人、特約などについて条項が設けられています。
賃貸借契約書を見直す際には、単にインターネット上のひな型を使うのではなく、その物件の管理方法と実態に合っているかを確認することが大切です。
① 家賃・共益費・支払期日
最初に確認したいのが、家賃に関する条項です。
最低限、
- 月額家賃
- 共益費・管理費
- 駐車場料金
- 支払期日
- 支払方法
- 振込手数料等の取扱い
などを明確にしておきます。
例えば、
「毎月末日までに翌月分を支払う」
のか、
「当月末までに当月分を支払う」
のかでは意味が違います。
実務ポイント
家賃滞納が発生した際には、
「いつが支払期限だったのか」
を最初に確認します。
契約書と実際の管理方法が違っていると、滞納管理が複雑になります。
② 遅延損害金
家賃の支払いが遅れた場合の遅延損害金についても確認します。
契約書に記載があるからといって、どのような内容でも問題がないわけではありません。
特に古い契約書では、長年見直されていない割合が記載されている場合があります。
チェックしたいポイント
- 遅延損害金の定めがあるか
- 現在の法令との関係に問題がないか
- 契約書全体との整合性が取れているか
昔作った契約書を使用している場合には、一度確認しておきたい項目です。
③ 契約解除
家賃滞納の記事でも繰り返し説明していますが、
「契約書に解除と書いてある=直ちに解除できる」
とは限りません。
例えば、
「家賃を1回でも滞納した場合、貸主は直ちに契約を解除できる」
という条項があったとしても、その文言だけで実際の解除の可否が機械的に決まるわけではありません。
賃貸借契約では、契約内容だけでなく、滞納状況やこれまでの経緯なども関係します。
実務ポイント
解除条項は、
「強く書けばオーナーに有利になる」
というものではありません。
実際に運用できる内容になっているかを確認することが重要です。
④ 保証会社・連帯保証人
現在の賃貸管理では、保証会社を利用するケースが多くなっています。
ところが古い契約書を見ると、
「連帯保証人」の条項しかなく、実際の保証会社利用と契約書の内容が合っていないことがあります。
確認したいのは、
- 保証会社の利用
- 保証契約の更新
- 保証範囲
- 保証会社変更時の取扱い
- 連帯保証人を設定する場合の内容
などです。
「保証会社があるから安心」とは限らない
保証会社ごとに、
- 滞納報告期限
- 代位弁済
- 保証対象
- 免責事項
- 保証期間
などが異なります。
賃貸借契約書だけではなく、保証契約書もセットで確認しておくことが大切です。
⑤ 契約期間・更新
次に確認したいのが契約期間と更新です。
例えば、
- 契約開始日
- 契約終了日
- 更新方法
- 更新手続き
- 更新時の条件
- 定期建物賃貸借なのか普通建物賃貸借なのか
などです。
「昔からこの書式だから」という理由だけで使用するのではなく、実際の契約形態と契約書の内容が一致しているか確認しましょう。
特に普通建物賃貸借と定期建物賃貸借では取扱いが異なるため、契約形態に応じた書面作成が重要になります。
⑥ 禁止・制限事項
入居後のトラブルを防ぐために重要なのが禁止・制限事項です。
例えば、
- 無断転貸
- 民泊利用
- ペット飼育
- 楽器演奏
- 危険物の持込み
- 共用部分への私物放置
- 用途変更
- 他の入居者に迷惑を及ぼす行為
などがあります。
時代に合わせた見直しも必要
以前の契約書には、
「民泊」
「インターネット上での短期貸し」
などを想定した条項がないこともあります。
物件の特徴や現在の利用状況に合わせて、禁止事項を整理することが重要です。
⑦ 修繕・設備故障
賃貸管理で頻繁に発生するのが、
「設備が壊れた」
という連絡です。
例えば、
- 給湯器
- 暖房設備
- エアコン
- 水栓
- トイレ
- インターホン
- 照明
- その他付帯設備
などです。
札幌では特に、暖房や給湯設備の故障は冬期間の生活に大きく影響します。
契約書では、
- 修繕の連絡方法
- 貸主・借主の負担
- 借主が勝手に修理した場合の取扱い
- 借主の故意・過失による破損
などを確認しておくことが大切です。
⑧ 原状回復
退去時に最もトラブルになりやすい項目の一つが原状回復です。
ここで大切なのは、
「原状回復=入居した日の新品状態に戻すこと」ではない
という点です。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常の使用による損耗等と、借主の故意・過失や通常の使用を超える使用による損耗・毀損を区別する考え方が示されています。
また、借主負担については経過年数を考慮する考え方も示されています。
特約を書けば何でも借主負担になる?
そうとは限りません。
例えば、
「退去時の修繕費用はすべて借主負担」
とだけ書けば必ず有効になる、という単純なものではありません。
特約については、その内容や説明、借主の認識なども問題になります。
そのため、
曖昧な特約を増やすのではなく、負担内容をできるだけ明確にすること
が重要です。
⑨ 解約予告・違約金
借主から解約する場合、
「退去日の何日前までに通知するのか」
を確認します。
例えば、
「1か月前」
などの解約予告期間を設けることがあります。
また、契約内容によっては短期解約に関する違約金を設けている場合があります。
確認したいポイント
- 解約予告期間
- 解約通知の方法
- 賃料の日割り計算
- 短期解約違約金
- 特約との整合性
退去時に初めて確認するのではなく、契約時に借主にも分かる形にしておくことがトラブル防止につながります。
⑩ 明渡し・残置物
最後に確認したいのが、明渡しと残置物です。
退去時には、
- 鍵の返却
- 私物の搬出
- 室内確認
- 原状回復
- 敷金精算
などが発生します。
特に問題になるのが、
借主が荷物を残したまま退去した場合
です。
「契約書に残置物を処分できると書いてあるから、すぐ捨てていい」
と安易に判断することは危険です。
残置物は所有権などの問題が関係するため、自己判断で処分するとトラブルになる可能性があります。
残置物については、別の記事で詳しく解説します。
古い賃貸借契約書を使い続ける場合の注意点
長期間同じ契約書を使用しているオーナー様は、一度次の点を確認してみてください。
契約書と実際の管理が一致していますか?
例えば、
契約書では「家賃振込」となっているのに、現在は保証会社による収納代行になっている。
契約書では連帯保証人となっているのに、現在は保証会社を利用している。
このようなズレがないか確認します。
使っていない条項が残っていませんか?
昔の管理方法を前提とした条項が、そのまま残っていることがあります。
特約を追加し続けていませんか?
契約書を見直さず、
「問題が起きるたびに特約を追加する」
という方法を続けると、契約書全体の整合性が分かりにくくなる場合があります。
一度全体を整理することも重要です。
【現場コラム】契約書は「トラブルが起きた後」に読まれる
不動産管理会社で仕事をしていたとき、
契約時にはほとんど意識されなかった条項が、
トラブル発生後には非常に重要になることを何度も経験しました。
例えば、
「ペットを飼っていいのか」
「修理代は誰が負担するのか」
「家賃滞納時はどうするのか」
「退去は何日前に通知するのか」
「原状回復費用は誰が負担するのか」
という問題です。
トラブルが起きてから契約書を開き、
「この場合について何も書いていない」
となると、対応が難しくなります。
逆に、
契約時からルールが明確になっていれば、
借主にも説明しやすく、管理会社も対応しやすくなります。
賃貸借契約書は、
「トラブルになったときに相手を責めるための書類」ではなく、「トラブルを防ぐためのルールブック」
として考えることが大切です。
賃貸借契約書チェックリスト
現在使用している契約書を見ながら確認してみてください。
□ 家賃・共益費・支払期日が明確
□ 実際の支払方法と契約書が一致している
□ 遅延損害金について確認した
□ 契約解除条項を確認した
□ 保証会社の利用状況と契約内容が一致している
□ 連帯保証人に関する内容を確認した
□ 更新方法が明確
□ 禁止・制限事項が現在の物件に合っている
□ 修繕・設備故障時の取扱いを確認した
□ 原状回復の条件が明確
□ 解約予告期間を確認した
□ 短期解約違約金等の特約を確認した
□ 明渡し方法を確認した
□ 残置物について安易な処分を前提としていない
□ 契約書と現在の管理方法にズレがない
一つでも、
「よく分からない」
という項目があれば、契約書を見直すきっかけにしてみてください。
行政書士に賃貸借契約書の作成・見直しを依頼するメリット
インターネット上には、多くの賃貸借契約書のテンプレートがあります。
しかし、物件ごとに管理方法は違います。
例えば、
- 一戸建て
- アパート
- マンション
- 店舗
- 事務所
- 駐車場
では、必要となる条項も異なります。
また、
「ペット可物件」
「高齢者入居」
「事業用」
など、物件の運用によって確認すべきポイントも変わります。
行政書士へ依頼することで、
- 現在の契約書の確認
- 条項の整理
- 特約の整理
- 新しい契約書の作成
- 管理方法に合わせた文書の整備
などのサポートを受けることができます。
当事者間ですでに具体的な紛争が発生し、相手方との代理交渉や訴訟対応が必要な場合には、弁護士への相談が必要となります。
よくある質問
Q 昔の賃貸借契約書をそのまま使っても問題ありませんか?
契約書が古いという理由だけで直ちに問題になるわけではありません。
ただし、法律・制度の変更や保証会社の利用、現在の管理方法などと契約書の内容が合っているか確認することをおすすめします。
Q インターネットの無料テンプレートでも大丈夫ですか?
参考にすることはできますが、その物件の契約形態や管理方法に適しているとは限りません。
特約を追加する場合も、契約書全体との整合性を確認する必要があります。
Q 原状回復は全部借主負担と書けばいいですか?
単純に「すべて借主負担」と記載すればよいとは限りません。
国土交通省のガイドラインでは、通常損耗等と借主の故意・過失等による損耗を区別する考え方が示されています。
特約についても、その内容や合意の状況などを踏まえて検討する必要があります。
Q 家賃滞納時にすぐ解除できる条項を入れられますか?
契約書に解除条項を設けることはありますが、条項を書けばどのような状況でも直ちに解除できるというものではありません。
実際の解除については滞納状況や経緯などを踏まえた判断が必要になります。
Q 残置物を「貸主が自由に処分できる」と書けば大丈夫ですか?
残置物には所有権などの問題が関係します。
契約書に一文を入れれば、どのような状況でも自由に処分できるとは限りません。
個別事情に応じた慎重な対応が必要です。
Q 行政書士に賃貸借契約書を作ってもらえますか?
はい。
行政書士は賃貸借契約書をはじめ、各種契約書の作成や見直しについてサポートできます。
特に当事務所では、不動産管理会社での20年以上の実務経験を活かし、実際の管理現場を意識した契約書作成を行っています。
まとめ|賃貸借契約書は「トラブルになる前」に見直す
賃貸借契約書は、
入居時に署名・押印して終わる書類ではありません。
家賃滞納、修繕、騒音、ペット、退去、原状回復、敷金、残置物など、
賃貸経営で問題が発生したときの基本となる重要な書類です。
特に長期間同じ契約書を使用している場合には、
「現在の法律・制度・管理方法に合っているか」
という視点で見直してみましょう。
重要なのは、
オーナーに一方的に有利な契約書を作ることではなく、貸主と借主のルールを明確にしてトラブルを予防すること
です。
契約書を整備することは、安定した賃貸経営のためのリスク管理の一つです。
賃貸借契約書・不動産オーナーのご相談は行政書士 加藤昌史事務所へ
行政書士 加藤昌史事務所では、
- 賃貸借契約書の作成
- 現在使用している契約書の見直し
- 各種特約の整理
- 内容証明郵便の作成
- 不動産オーナー・管理会社向けの書類作成
などのご相談を承っています。
不動産管理会社で20年以上の実務経験を活かし、法律面だけではなく、実際の不動産管理現場で使いやすい契約書・書類作成を心がけています。
行政書士 加藤昌史事務所では札幌市を中心にご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
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公式ホームページ
賃貸借契約書でオーナーが見直したい10の条項を解説。家賃、契約解除、保証会社、修繕、原状回復、解約、残置物など、不動産管理会社で20年以上の実務経験を持つ札幌の行政書士が、賃貸トラブルを予防する契約書のチェックポイントをわかりやすく紹介します。